Vol.1 病気について ①
Q1:下肢静脈瘤とはどのような病気ですか?
下肢の静脈がふくれてコブのようになる病気です。
「瘤(りゅう)」とはコブのことで、血管が部分的にふくれて盛り上がっている状態です。
静脈という足の血管の中にある逆流防止弁が壊れておこります。
血液が心臓に戻りにくくなるので、昼間立っていると足に血がたまり、午後になると足がむくんだり、だるくなったりします。
悪化すると湿疹や色素沈着、潰瘍などの皮膚炎がおこります。
Q2:日本にはどのくらい下肢静脈瘤の患者さんがいますか?
日本人を対象とした調査[
※]では15歳以上の男女の
43%、30歳以上では
62%の人に下肢静脈瘤が認められています。
このうち手術の対象となる伏在(ふくざい)型静脈瘤に限ると8.7%です。
平成24年度の15歳以上の推計人口は1億1,096万5,000人ですので、下肢静脈瘤患者は
約4,800万人、伏在型静脈瘤患者は約970万人いると推定されます。
日本以外の国の人も、同様に下肢静脈瘤の患者さんはいます。海外でもいろいろな国や地域で調査が行われており、対象にした人の年齢や性別が違うので単純に比較することは難しいのですが、欧米は日本より多く、アフリカは日本より少ないようです。
下肢静脈瘤は加齢とともに発症率も上がるため、超高齢社会を迎えた日本での患者数は今後増加するであろうと推測されています。
※ (平井正文,久保田仁,川村陽一他 脈管学 28: 415-420, 1989)
Q3:下肢静脈瘤は昔からある病気ですか?
おそらく人類が木から降りて立って歩くようになった頃からある病気だと思われます。
記録に残っている限りでは、紀元前1,500年頃に古代エジプトで書かれたパピルスに下肢静脈瘤のことが書かれています。
また、紀元前400年頃のギリシャの石像の足には下肢静脈瘤が刻まれています。
Q4:なぜ下肢静脈瘤ができるのですか?
遺伝や妊娠・出産、長時間の立ち仕事によって足の静脈の中にある血液の逆流を防ぐための弁が壊れ、血液が足の静脈に溜まってしまうことが原因です。
これが長い期間続くと静脈が血液の圧力によってふくらんで下肢静脈瘤になります。
Q5:下肢静脈瘤とは、どのような状態ですか?
足の静脈の壁が血液の圧力によって引き伸ばされた状態になっています。
部分的に血液がたまってコブのようになったり、全体的に太くなってヘビのようにうねった状態になっている場合があります。
Q6:静脈瘤は足以外にもできることがありますか?
基本的には足以外には症状は現れません。
しかし、陰部静脈瘤という女性に多い静脈瘤は、卵巣の静脈瘤から発生するので生理の時に下腹部が痛む場合があります。
また、下肢静脈瘤から深部静脈血栓症・肺塞栓症をおこした場合(いわゆるエコノミークラス症候群)は、呼吸困難や咳、胸の痛みなどの症状が現れます。
Q7:下肢静脈瘤はどのような症状がありますか?
主な症状としては、足が重苦しい、重だるい、重痛い、むくみ、かゆみ、こむら返り、かゆみ、ほてり、皮膚炎などがあります。
皮膚炎には湿疹や色素沈着、白色皮膚(はくしょくひふ)萎縮症、脂肪皮膚硬化症、潰瘍があります。
まれに、むずむず脚症候群をおこして睡眠障害をおこすこともあります。
Q8:下肢静脈瘤かどうかはどのように診断するのでしょうか?
太い血管が浮き出ている場合、それが下肢静脈瘤なのか単に血管が浮き出ているのかは、弁の働きに異常があるかどうかで診断します。
弁の働きはエコー(超音波診断装置)検査で診断します。
血管が浮き出ていても弁の働きに問題がなければ下肢静脈瘤ではありません。
代表的なのは手の甲の静脈です。年を取ると手の皮膚が薄く、弾力がなくなるために手の静脈が目立つようになりますが、手の静脈の弁の働きは正常なので静脈瘤ではありません。
同様に、運動した時や夏に足首や足の甲の静脈が太く目立つことがありますが、これらの多くは静脈瘤ではありません。
気になる場合は医師に相談してください。
Q9:下肢静脈瘤は妊娠すると発症しやすいのはなぜでしょうか?
妊娠するとホルモンの影響により下肢静脈瘤が発症しやすくなります。
妊娠早期に増加する黄体ホルモン(プロゲステロン)の作用で、静脈が柔らかくなります。
それによって静脈が太くなる結果、逆流防止弁がうまく閉じなくなり下肢静脈瘤が発症します。
さらに、妊娠中は胎児によってお腹の中の静脈が圧迫されて血液が心臓に戻りにくくなるため、下肢静脈瘤が発症しやすくなります。
Q10:下肢静脈瘤の発症に年齢は関係ありますか?
下肢静脈瘤は一旦発症すると自然に治らないので、年齢とともに罹患率が上がります。
また、加齢とともに静脈の弁の数が減り、弁の働きが悪くなります。
さらに、筋肉量が減るためふくらはぎの筋ポンプ作用が衰えて下肢静脈瘤を発症しやすくなります。