専門医に聞く下肢静脈瘤
血管分野の最前線で活躍する先生方が、
専門医ならではの豊富な知識と経験をもとに、
下肢静脈瘤についてわかりやすく、詳しく解説します。
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Vol.6 皮膚症状から見た下肢静脈瘤
白杉 望 先生
横浜旭中央総合病院 下肢静脈瘤センター長
白杉 望 先生
1964年  神奈川県川崎市出身
1988年  慶應義塾大学医学部卒業 同外科学教室入局
1998年  藤田保健衛生大学医学部外科(血管外科)助手
1999年  米国エモリー大学外科スタッフ
2003年  公益財団法人愛誠病院 下肢静脈センター長
2017年〜 現職(HP ※外部サイト
1. 下肢静脈瘤は、様々な皮膚症状をきたします
「下肢静脈瘤の症状というと、コブがふくらむといった外観の症状、だるさ、むくみ、足がつる、といったものが浮かびます。では、皮膚に症状がおよぶこともあるのでしょうか?」
「はい、下肢静脈瘤は皮膚症状を呈することもあります。下肢静脈瘤は、『足の表在静脈(表面から見える皮膚の下にある静脈)の弁が機能不全になって、うっ血する(余分な血液が静脈にたまる)こと』が病気の根本にあります。余分な血液がたまるので、表在静脈の静脈圧が高くなります。下肢静脈瘤により慢性的に静脈圧が高い状態が続くと、その静脈性高血圧自体や、それに伴う慢性炎症により、皮膚に症状がおよぶことがあります。」
2. こんな皮膚症状が出たら、下肢静脈瘤に要注意!
「下肢静脈瘤の皮膚症状には、具体的にはどのようなものがあるのでしょうか?」
「下肢静脈瘤臨床分類に記載されている皮膚症状は:①色素沈着、②湿疹、③脂肪皮膚硬化症、④治癒後皮膚潰瘍、⑤活動性皮膚潰瘍、です(図1)。日本静脈学会静脈疾患サーベイ委員会による下肢静脈瘤調査※1」では、色素沈着が20.7%、湿疹が13.6%、脂肪皮膚硬化症が8.8%、治癒した皮膚潰瘍が2.7%、活動性皮膚潰瘍が3.3%に認められました。

※1
佐戸川弘之,八巻隆,岩田博英,ほか:一次性下肢静脈瘤の治療
─ 本邦における静脈疾患に関するSurvey XVII ─ 静脈学 2016; 27: 249-257
図1 下肢静脈瘤の皮膚症状
図1 下肢静脈瘤の皮膚症状
一方、皮膚科の外来でよく見かける症状に下肢静脈瘤が隠れていることもあります(図2)。その症状は『慢性色素性紫斑』といいます。『慢性色素性紫斑』を顕微鏡で観察すると、毛細血管レベルの出血と慢性炎症が主体です。したがって、静脈瘤を含めて足の静脈の循環障害があるかないかを診断する必要があります。」
図2 慢性色素性紫斑
図2 慢性色素性紫斑
3. 下肢静脈瘤と皮膚潰瘍
「下肢静脈瘤による皮膚潰瘍について、お聞かせいただけますか。」
「皮膚潰瘍は、下肢静脈瘤症状のなかで重症にあたります。我々のセンターでは、静脈瘤患者さん全体の5〜6%の方が皮膚潰瘍で初診されます。皮膚潰瘍は、『外から出来た皮膚のキズが治らない状態』を指します。『痒くて掻いた』『ぶつけた』『靴擦れ』などで、炎症のある皮膚に出来たキズが治らないと、潰瘍を形成します。静脈瘤は女性に多いのですが(男女比=1 : 2.4)、静脈瘤による皮膚潰瘍は男性に多く認められます(男女比1.87 : 1)※1」。

※1
佐戸川弘之,八巻隆,岩田博英,ほか:一次性下肢静脈瘤の治療
─ 本邦における静脈疾患に関するSurvey XVII ─ 静脈学 2016; 27: 249-257
4. 下肢静脈瘤と皮膚潰瘍:患者さんの体験談から
図3 ①初診時
図3 ①初診時
図3 ②圧迫治療後(潰瘍は治癒)
図3 ②圧迫治療後(潰瘍は治癒)
「一例を提示いたします。
患者さんは、50歳代男性、会社員です。立ち仕事に従事されていらっしゃいました。初診時のお話では、30歳代より左下腿の静脈瘤を自覚されていらっしゃいましたが、お仕事が忙しく放置されていたそうです。最初に皮膚潰瘍ができたのが11年前。近医(皮膚科クリニック)で軟膏塗布による治療を受けていましたが、治ってはまた潰瘍が再発する、を繰り返していらっしゃいました。

今回、仕事中の打撲がきっかけで皮膚潰瘍が再発しました。あまりに何度も再発を繰り返すので、今度は総合病院皮膚科を受診。静脈瘤による皮膚潰瘍が疑われたため、そのまますぐに当センターを診療連携・初診されました。

初診時、左下腿に潰瘍を認めました(図3①)。潰瘍面を保護し、パッドと弾性包帯による圧迫により加療しました。
潰瘍治療は通院治療で可能です。外来通院は、最初のうちは2週間に1回、その後1ヶ月に1回、計6回の通院で3ヶ月後には潰瘍は治癒しました(図3②)。潰瘍再発を防ぐためにその後、下肢静脈瘤に対しては血管内焼灼術による根治術(日帰り手術)を施行しました。

患者さんからは以下のような嬉しいお言葉をいただきました。

『皮膚潰瘍がなかなか治らないと、入浴などに差し支えるし、営業など仕事をしながらキズの手当を毎日しなければならないのがとても大変だった。だから、一旦治ったあとも皮膚潰瘍が再発するのではないかと、とても不安だった。』
『いままで、どうして皮膚潰瘍ができるのか?どうして再発してしまうのか?治療に必要なことは何か?といったことをきちんと説明を受けたことがなかった。静脈瘤のことも今回、初めて指摘された。』
『治療を開始して、これだけ早く皮膚潰瘍が治ったのは初めてだった。
圧迫治療が大切なことがよくわかった。』
『静脈瘤の根治術が日帰りで楽に受けられてとてもよかった、感謝している。』」
5. 静脈瘤による皮膚潰瘍:圧迫療法が重要です
「下肢静脈瘤による皮膚潰瘍は、潰瘍部分の静脈性高血圧と炎症によりキズが治りにくくなっています。したがって、軟膏を塗布しただけでは治りません。潰瘍部分の静脈性高血圧を改善することにより潰瘍の上皮化(キズが治ること)を誘導します。静脈性高血圧はうっ血が原因です。潰瘍部分を上手に保護したうえで、パッドと弾性包帯により圧迫することにより、うっ血を取り除きます。」
図4 静脈瘤による皮膚潰瘍に対する圧迫治療
図4 静脈瘤による皮膚潰瘍に対する圧迫治療
6. 静脈うっ滞性潰瘍:診断の大切さ
「静脈うっ血による皮膚潰瘍は、静脈瘤も原因のひとつですが、ほかに、深部静脈血栓後遺症が原因になることがあります。この二つを鑑別することは重要です。なぜならば、静脈瘤が原因で生じる皮膚潰瘍では、潰瘍治癒後に静脈瘤に対する手術が必要だからです。一方、深部静脈血栓後遺症による皮膚潰瘍は、手術適応にはなりません。」
7. 静脈うっ滞性潰瘍:手術の大切さ
「静脈瘤による皮膚潰瘍患者さんにおける手術について教えてください。」
「ガイドラインでは、静脈瘤による皮膚潰瘍に対する初期治療として、圧迫療法が推奨されています。一方、治癒した皮膚潰瘍の患者さんでは、潰瘍再発予防のためには静脈瘤に対する根治術(血管内焼灼術またはストリッピング)が必要です。圧迫療法後に手術をした場合としなかった場合を比較すると、圧迫療法後に手術をしたほうが、1年以内・4年以内の潰瘍再発率が有意に低かった、という研究結果※2が報告されています。」

※2
Barwell JR, Davies CE, Deacon J, Harvey K, Minor J, Sassano A, et al.
Comparison of surgery and compression alone in chronic venous ulceration (ESCHAR study):
Randomised controlled trial. Lancet 2004; 363: 1854-9
8. 最後に。静脈瘤による皮膚潰瘍:適切な治療で治しましょう!
「静脈瘤による潰瘍は、ほとんどの場合、通院により治療します。適切な治療(潰瘍を保護して圧迫療法)により潰瘍は治癒します。その後に、潰瘍再発予防のために静脈瘤根治術(血管内焼灼術など)を施行します。静脈瘤による皮膚潰瘍でお悩みの方は、ぜひ一度、静脈瘤専門医にご相談ください。」

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